園佳也子さん、逝く

 ここ最近立て続けに、好きだった女優さんが二人亡くなられた。どちらも名脇役で、味のある方だった。そのおふたりのことを、書きとめておきたい。

園佳也子さん

「場面さらい」
 そんな表現がふさわしい方だった。アクの強い役をよく演じられていて、彼女が出てくると主役を喰ってしまうような存在感があった。でもそれは主役の邪魔になるのではなく、シンを引き立てる際立ち方だった。いじめ役、いびり役、おせっかいな役……五社英雄の映画『吉原炎上』、テレビ史上に名を残すドラマ『ありがとう』パート3、そして朝のテレビ小説『おんなは度胸』、どれも思い出すたび、本筋と共に彼女の小憎らしい表情がよみがえってくる。
 いじめ役ってのは難しいものだ。簡単に思えるかもしれないが、人をいびる、いじめるというのは役者に愛嬌と魅力という「技量」がなければ、いいドラマにはならない。
(愛嬌というのは私は大きな意味でテクニックだと思っている。本来から持ち合わせる魅力だけでは演劇界に長くいることは出来ない。その持ち味の「みせかた」を熟知してひとつ、転じて身につけなければいけないと思うのだ)
 単なるヒールだけでなく、その奥に哀感をにじませるような、ひとつ格上の表現ができるひとだった。人に情けをかける心の余裕もないほどに、切羽詰って生きてこざるを得なかったような女。そこまで捻じ曲がってしまったのには、彼女なりの事情があったのだろうと思わせるような女。

 長年、朝日新聞社で劇評欄をつとめた山川和雄氏は、著書『女優どらまつむぎ』(エフエー出版)の中で、彼女をこう評している。
「それにしても激しい気性だ。芸について燃えるように語り、考え、迫る。全身、火の魂だ」
 そして園佳也子自身の言葉。

「おもしろいから、どんな穴へでももぐり込んで見たろと思うのよ。ありとあらゆる性格、生きざまを、どんな役にでもふんしてやったる! 野たれ死んでも構わない。役者って、そんなものやないやろか」

 享年、八十。合掌―――。

 もうおひとかたは明日に。


【記録・7月30日スポーツ報知より】

テレビドラマ「細うで繁盛記」や映画、舞台などで名脇役として活躍した女優の園佳也子(その・かやこ)さんが死去していたことが29日、分かった。80歳だった。

 警視庁世田谷署によると、27日午後2時20分ごろ、東京・世田谷区内の自宅マンションの風呂場で園さんが倒れていたのをめいが発見。救急車で搬送されたが、死亡が確認された。捜査の結果、事件性はなく、死因は心不全という。園さんは独り暮らしで、裸のまま倒れていたという。

 園さんは東京生まれだが、関西で育ち、関西弁の快活な演技で個性派女優として活躍した。「細うで―」など夫婦役を何度も演じた大村崑(78)はスポーツ報知の取材に「3〜4年会ってなかったが、体の調子が悪いのかなと心配していた。見た目は面白いけど、実際は神経質な人。監督に平気で意見したり、納得がいかないことがあると進行を止めたりして、こだわりの強い、昔ながらの役者だった」。また舞台「三婆」で共演した女優の水谷八重子(71)は「すごくさびしい。ショックです。心も体も強くて、殺しても死なないような人でしたから…」と肩を落とした。

 ◆園 佳也子(その・かやこ)1929年10月7日、東京都北多摩郡生まれ。大阪市天王寺区育ちで神戸女学院大英文科卒。53年、NHK放送劇団の聴講生に。NHKドラマ「ボーナス」でテレビ初出演。60年「水戸黄門・天下の大騒動」で映画デビュー。66年に活動の拠点を東京に移す。70年日本テレビ「細うで繁盛記」で人気に。ドラマは「ありがとう」「おんなは度胸」、舞台は「細雪」「ゆでたまご」「三婆」など。98年NHK大河「徳川慶喜」に出演。

 「殺しても死なないような」って……まあ水谷さんの友情のあらわれなんでしょうが(笑)。