ザック・エフロンに感じるJ・スチュアート的資質

ジェームズ・スチュアート




 昨日に引き続き、『17 アゲイン』のザック・エフロンのことを。いや、彼から思った、とある男優群のことを今日は書いてみたい。


 ちょっと後述なんていって忘れてましたが、私はこの作品のエフロンを観ていて、
「女にいじられてサマになる人だなあ、不思議なおかしみのうまれる人だなあ」 そう思ったんですね。こういう男優は、希少だ。



○マストロヤンニ&グラント的男たち

 この映画の中で彼は、様々な女たちモミクチャにされるわけです。いきなり朝起きたら高校生の頃の自分になってて、それと気づかない娘に惚れられ、母親(つまり自分のワイフ)には「昔のダンナにソックリ、あんた誰!?」と訝しがられ、娘のクラスメートにもモテモテで迫られ……。


 単なる色男がやったら、「それで?」ってな展開だ。鼻持ちならない。さりとてコメディセンスだけあっても仕方ない。この手の「受けの演技」ってのは、難しいものなのだ。
 だが、それを得手とする男優というのは、いつの時代も一定数いる。別に女にモテたいと思ってないのに迫られたり。そんな態度に業を煮やした女にキレられたり。根がジェントルなゆえに、そこを利用しようと企む女に狙われたり。こんなシチュエーションに生まれてくる、喜劇的妙味。


  


 そんな芝居を最も得意とした男優は、ヨーロッパなら今は亡きマルチェロ・マストロヤンニアメリカではケイリー・グラントの両雄じゃないだろうか。
 フェリーニはマストロヤンニというソフィスティケートの権化のような「クッション」があったから、女たちを存分に描けたと思う。あーいう「受け止め手」がいなければ、どうしても女の生々しい部分がキツく描かれてしまうもの。ケイリー・グラントならもちろんヒッチコックだ。この人は謎の美女に振り回されるのが世界で一番絵になる男(それでいて『シャレード』も出来てしまうのだから、凄い)。


(上の写真:左がマストロヤンニ、右がグラント。えっらい決めてますね二人とも……映画だと面白い表情連発するのに)


○日本ならモリシゲ&ガンジロー

 日本ならば断然、森繁久彌と二世中村鴈治郎だ。このお二方は「女になじられるとき」の芝居が超絶的にうまい。
 森繁の『夫婦善哉』(写真左・女は淡島千景)、そして『猫と庄造と二人のおんな』の2作品は、森繁が女になじられるシーンを楽しむ映画だと思う。どーしょーもない男が、女に意見される。文句を言われる。恨みごとをいわれる。完全に、「受け」の芝居。ごもっともな提言なので、グウの音もでない。そこに、芸が出る。彼は『夫婦善哉』を演じるにあたって、元禄時代の歌舞伎役者、芳沢あやめの「荒事は小児の如く振舞うべし」という言葉を「色事は……」と転化させヒントにしたそうな。確かになじられているときの森繁の表情は、まるで童心のそれで観るものを飽きさせない。それどころか、笑わせる。
 ちょっと余談だけれど、森繁は『文七元結』の長兵衛を演じたことはないのだろうか。ああ……観たいなあ! 森繁が角海老お駒に説教されるシーンなんて、どんなにかいいだろう。お駒は……すこし年上で色街の貫禄ある女将で……関西噺ならば浪花千栄子でドンピシャなんだが。藤間紫じゃ森繁には若すぎるし……先代水谷八重子しか思いつかないのが、なぜか悔しい。

 
 閑話休題! 
 小津安二郎の『浮草』の中村鴈治郎もそうだ。有名な雨のシーン、京マチ子に積年の裏切りをなじられる場面。これも今思えば「小児の如く」なんだなあ。正確に覚えていないが、京に向かってただ「なんやボケ」「やかましいわい!」とわめくだけだったような。それでいて実に、「みせる」のだから凄い。
 と、くると「市川雷蔵は?」と思う人もいるかもしれない。市川崑の『ぼんち』はまさにそんな感じだが、彼は少し確信犯的な匂いがする。女にからまれつつ、それを楽しむ余裕があるというか、さほど困ってないというか。



○エフロン≒スチュアート

 と、すいません、こういう話しだしたら停まらないんです。話は唐突に戻りますが、私はザック・エフロンにこの系譜に入る資質を感じたんですね。
 中でも同類の匂いを感じるのが、ジェームス・スチュアートだ。
 古きよき時代の男の気概、困った人を放っておけない(死語ですが)「ナイスガイ」的ニュアンス。ジェームズ・スチュアートは、そういう人物像が実にハマる人だったと思う。さらにはその真っ直ぐさゆえ、女に翻弄されてしまうキャラクターがしっくりくる人でもあった。『17 アゲイン』のザック・エフロンは、まさにそんなキャラクターがハマっていた。ハリウッドのひとつの王道路線、女を受け止める芝居を出来る大人の俳優に、サラッと成長してほしいもんだ。
 トム・ハンクスのように「俺様超大好き!」路線とか(なぜか最近のあの人は必ず脱ぐ。西のトム・ハンクス、東の高橋克典ってなぐらい、脱ぐ。さしていい体でもないのに。誰も頼んでいないと思うんだが。ひょっとしてハリウッドお得意の契約書の束に書いてあんのか!? )、エドワード・ファーロングのように「あの輝きはいずこへ」路線に、どうか陥りませんように。



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