「色」としての八ツ橋

百まで踊り忘れず。生きたら怖い



 古本屋で見つけた対談集、女優・藤田弓子さんがホストの「このひとにあいたい」が面白かった(1992 主婦の友社)。
 そのなかで印象的だった、杉浦日向子さんの言葉。
江戸の町を一言でいうと、雀の羽色なんです。雀の羽の色が色のすべて。つまり焦げ茶、白、灰色、まぁ、後せいぜい紺とかベージュ。町並みはすべて木と土と紙ですし、着物の色も江戸好みというと、そんなような色
 これを読んで思い出したのが、歌舞伎の「籠釣瓶花街酔醒」(かごつるべさとのえいざめ)。



 次郎左衛門(じろざえもん)は下野(しもつけ)の商人、江戸の町に出てきたばかり。
そこで「ばったり」出逢っしまったのが、花魁(おいらん)八ツ橋。色街の総本山、吉原の太夫(たゆう)。ポンとぶつかって振りかえれば、そこに運命の女がいた……。

 私はこのシーン、田舎者が突然絶世の美女を目にして気が動転、一挙に一目ぼれ……という情景だと思っていた。
 もちろんそれは正しいだろう。けれど、次郎左衛門の目には「色」のショックもあったのだろうなあ、と思った。
 それまで、周りは地味な色ばかり。
今まで人生で出会った人々は、すべて煮しめたような色を身にまとっていた。それが突然、金糸銀糸に朱に桃色、それこそ「おかいこぐるみ」満鑑飾の物体が現れた、そのカルチャーショック!
 呆然とする男を見て花魁、八ツ橋は悠然と微笑み、去っていく。次郎左衛門のその目には、花魁の唇の紅がなんとも鮮烈に残っただろうなあ。



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