『佳苗が来たりて墨を炊く』

笛と墨どっちがいいですかあなた



 いやはや、あはは……あは、あはははは。
 書きそびれるうち新事実がまぁ、出るわ出るわ。「埼玉・結婚詐欺連続不審死事件」ですけれども……唖然呆然、その「凄腕っぷり」に思考フリーズしてしまう。
 30日のサンスポによると、木嶋佳苗容疑者は婚活サイトのみならず

不倫相手を探すサイトにも「登録」。ここで交際に成功した無職男性(83)を脅して、現金百数十万円を受け取っていた。ほかにも、同様の“被害者”がいるとみられ

――このサイトだけで、20人以上が浮かび上がっており、

当初の「結婚サイト」だけでも、名乗り出ていない“被害者”を含めれば、20人以上が毒牙にかかっていると指摘されて


 いるんだそうですね。40人以上が「毒牙」に。毒牙って「女→男」にも使う表現だったのか。正確を期するならば「毒液」とかじゃなかろうか。失礼しました。「詐欺が毎日の仕事のようになっていた」そんな供述もあったんだそう。いや立派に「仕事」にしてるだろう佳苗。ひとり美人局みたいなもんじゃないか。
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(「捜査関係者によると、女はサイトで「学生」などと称して20人以上の男性に接近。女が金をだまし取ったり、だまし取ろうとしたりした男性は9人に上り、うち4人が死亡。少なくとも1億円が女に渡ったとみられる」11日付の時事通信ニュースによるとこれが公式見解のよう)


 不思議だったのは、「好きな歌手」欄だ。
 『週刊文春』(11月12日号)のグラビアによると、高校の卒業文集の「自己PR」ページに木嶋佳苗容疑者は、好きな歌手として以下を挙げている。
マライヤ・キャリー、ボビーブラウン、浜省、石原裕次郎、ドリカム、松田聖子」(表記ママ)

 取りとめのなさにも驚くが、石原裕次郎を好きであることを、
「女子高生が卒業文集に書く・公表する」
 こっちのほうが……私には驚きだった。さらには好きなタイプとして、「逸見政孝志村けん・梅宮辰夫」を挙げている。この、ためらいの無さは何だろう?
 十代という時代に、自分の趣味嗜好が「大多数」と違っている、自分が「少数派」であることを公言するのは、中々に難しいことではないだろうか。
 このひと、私のひとつ上なんですよ。昭和49年11月生まれ。この文集が書かれたのは1994年だと思うが、そのときで裕次郎が亡くなって7年経っている。
 1987年に裕次郎が亡くなったとき、テレビはこぞって彼の特番、そして若い頃の映画を追悼放映した。当時、容疑者は13歳。裕次郎は中学一年生の女子の心を撃ったのだろうか。高校の卒業文集に、ファンを公言させるほどに。


■心は「まき子」だったに違いない


週刊新潮』(11月12日号)にはこんな記事が。
「老人に対しては、“介護やります”という言葉の通り、“シモの世話”から何から全てやってあげる。そうやって徹底的に奉仕することで男を骨抜きにしてしまうのです」
 断言してもいいが、このとき木嶋佳苗は「石原まき子夫人」になりきっていたと思う。
 彼女の犯罪には「小芝居」がつきまとう。劇場型犯罪ならぬ、演劇的、いや、小芝居的犯罪だ。

「国立音楽大卒、ヤマハに勤務中だがケンブリッジに音楽留学したいと思っている」
ヤマハの偉い人と一対一で話しをして、特別にケンブリッジ留学を認めてもらった」
「母は皇族の出身、雅子様から手紙を貰い、お見舞いにも」
「お父さんは昔、セスナの離陸に失敗して死んだ」

(すべて前出『週刊文春』より)

 介護ヘルパーになりきって入り込んだ家で火災が発生。取調べを受けると
サスペンスドラマのような一日でした
 ブログにこう書き込む木嶋佳苗

 同世代の私には、彼女がその都度なりきっていたであろう「主人公」たちが、なんとなく思い浮かぶ。
石原裕次郎のファンを公言する彼女。世紀のロマンスと謳われ、大スターの寵愛を一身に受けた「まき子夫人」の姿は、ひとりのシンデレラとして、かつ賢夫人として、木嶋容疑者の脳裏にこびりついていたはずだ。

「あんなふうになりたい」

 かつて石原裕次郎が病に倒れベッドから動けなかったとき、咄嗟の便意をまき子夫人が手で受け止めた……というエピソードは、裕次郎死去のさいに繰り返し報道された「美談」である。彼女は、この話を絶対に心に刻み付けていたと思う。
 まき子夫人さならがらの甲斐がいしさで、“シモの世話”をする木嶋容疑者。絶対に「なりきって」いたはずだ。「まき子夫人」のように優しい私。しかしその糞尿は「石原裕次郎」のものではない。小芝居の気持ちが冷めたときに湧き起こるのは、当然の代償を求める気持ち。そして、
「なんで私があんたなんかに……」
 そんな勝手な憎悪ではなかっただろうか。


■あまりに80年代的な憧憬のバックボーン(推測)
 

 ピアノでいえば、中村紘子だと思う。当時、『夜のヒットスタジオ』やカレーのCMで華麗な演奏を披露していた彼女は、いかにも「セレブ」な雰囲気をふりまいていた。
 そして皇族妄想は、「お嬢さまブーム」への強い憧憬を感じさせる。雅子妃以前、無数の「お妃(きさき)候補」が雑誌を賑わせては消えた。元家族、元財閥出身の華麗なる経歴とファッションを、木嶋容疑者は心に焼き付けたことと思う。
小道具のセスナとか、「お母さんは自分の財布で買い物したことない」とかいうエピソード……この人は一条ゆかりの『有閑倶楽部』を熟読していたんじゃなかろうか。分かりやすい「ラグジュアルなキーワード」に、あの漫画は溢れかえっていた。


 しかし……わからないのが、住所だ。
 その後の報道では、とかく「虚栄心にまみれた生活」なんて見出しが躍る。

昨年9月のブログでは《カットはもう何年も乃木坂の美容室で、君島十和子さんと同じ先生に担当していただいている》と自慢。今年6月の書き込みにも、愛車のベンツを美容院近くの東京ミッドタウンに止めて、店に通う様子が書き込まれていた。
 (29日 産経ニュースより)


■なんで「豊島区」なんだ!?


 それでどうして、「豊島区在住」だったのか!?
 虚栄心が強くてなんで豊島区なんだ。おかしいじゃないか。はい、豊島区のみなさん申し訳ありません。けれどもさあー、地方から出てきて「君島十和子」「叶姉妹」に憧れて、いったいどうして豊島区なのか。ベンツ買う金があったら、港区・渋谷区・目黒区あたりに住みそうなもんじゃないか!?
「いや、そのへんだと自分に引っ掛かりそうな男が住んでないんでしょ」
 今フト思いついた回答だが……うーん……そうかもしれない。
 このひと、自分への強い(裏付けのない)自信と、自尊心の欠如が拮抗していたのかもしれませんね。
「私はセレブたるべき女。私が頼めば引っ掛かる男なんていくらでもいるのよ」
 そういう強い自信と、それなりの結果。けれど
「でも……それはしょせん千葉や青梅や地方の話。青山や麻布じゃ私なんてきっと……」


 あくまで私見だが、田舎コンプレックスの強い人間ほど都心には住まない傾向があると思う。それでいてこの手の人間は、「品川ナンバー」に強い執着をみせたりする。実際に「超都会」に住むのは性に合わない、住むのは「スェット」で歩ける町がいい。でも、人に見られる・見せるポイントは「都会」でありたい! 
35歳以上の地方出身者で、男だとコム・デ・ギャルソン、女だと(ごめん、考えたけど分からん)なんかを着ている人に特にその傾向が強い。
 木嶋容疑者はその「セレブ目指した憧れ」を、服にはどう転化していたのか。彼女の着ていた「お気に入り」が、私は知りたい。
なんのために。



 
○付記
 ちょっとした疑問。
 なぜ音楽留学をするのに、ケンブリッジ大学を選んだのか。中村紘子が全額奨学金で留学した「ジュリアード音楽院」とか、名門「カーティス音楽院」、イギリスなら「ロイヤル・アカデミー」なんかが順当なところではないだろうか。ケンブリッジにも確かに世界最古の音楽部があるが、演奏よりも音楽理論や作曲などの研究のほうが盛んだったような。とにかく、演奏留学として第一位に希望するようなところではないはずである。
 容疑者は母親がピアノ教師で、自分も兄弟も習っていたようなんですね。どの過程までいったかは定かでないが、なかなか上手だったよう。それで「ケンブリッジ」を留学先に挙げるのが、わからない。詐欺を働く相手にわかりやすい「すごいところ」感を出したかっただけか。


○付記2
 あはは、なんだかすんごく……ありがちな図柄に木嶋佳苗を押し込めてしまった。事実はもっと図太いもんだろう。私はどこまでも女に分かりやすくドラマティックにいてほしいんだろう。
 

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