市橋達也容疑者、逮捕。そして森繁久彌さん、逝く。

享年96歳




 どっちのことについても、たったひとことしか思い浮かばない……ようでもあり、ものすごくいろんなことが、胸を去来するようでもある。
 前者は、「とうとう……」という、そのひとことだ。
 10日の夜、私は渋谷の飲み屋にいた。21時12分に届いた友人からのメールを開いてみれば
「森繁死す!」
「えええっ!」と思わず声に出した瞬間、内心「とうとう……」という文字が、浮かんだ。そのちょっと後に、
「市橋捕まったってよ!」
 軽くコーフンした口調で、常連さんが入ってきた。狭いその飲み屋に「えーーーっ!」という歓声だか嬌声だか分からないような声が響いた。

  この日、市橋達也容疑者が逮捕され、そして森繁久彌さんが亡くなった。

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 森繁久彌
 かつて私は、この方のことを、このブログに書いた。
「ニッポン先生考」というタイトルで、なぜか「先生」と問答無用で呼んでしまう人々のことをネタにした。(参照→こちら
 そう、森繁久彌は私にとって、ずっと「モリシゲセンセイ」というひとつの単語だった。「森繁久彌」という映画俳優、朗読者、芸人、舞台人……何ひとつ、わたしはリアルで知らない。
 テレビドラマではいつも「特別出演」という仰々しい「折り紙」がついてくる。
 芸能人がテレビでその名を呼ぶときは必ず「先生」という尊称をつける。
 あの口の悪い高峰秀子も手放しで絶賛する大俳優……。


 
 なんだか……ガキの私は、反撥してしまった。
 高校生になって名画座に通うようになったが、あの傑作と名高い『夫婦善哉』でも、私はさほどシビレなかった。淡島千景のウケの演技、掛け合いの「イキ」があってこそ、森繁の演技が際立っていると思う。文献を読む限り、喝采が森繁ひとりに捧げられているような気がして、なんだか不満を覚えたのだ。
 傲慢は承知で書く。このひとは「何かやってやろう」「何か絶対に観るものの印象に残ってやろう」という先天性の「虫」がその腹にいるように思えてならない。それが多くの人には「こたえられまへんな、よっ、待ってました森繁!」となるのだろうが、私がそれが、うっとおしかった。
 亡くなられた方に対して、功労者に対して、ヒドい書き方をしていると思う。
 ただ、「うまいなあ」とは思うのだ。しかしそれは、「うまいっ!」と瞬間的に心底から発せられるような「うまさ」ではなく、観ながら「巧いなあ」と心の中で漢字に変換できるようなタイプの感興なのである。


「一度も舞台を観たことないくせに」「あの時代にどれだけ社長シリーズや駅前シリーズで我々が楽しませてもらったことかっ!」「ラジオ絶品だったんだぞ」
 うん、怒られるだろう。多くの人にとって、不愉快なことを書いているだろう。すみません。

 これから追悼で何かしら特集上映などがあると思う。
 映画館で、じっくり「モリシゲセンセイ」と対峙してみたい。そして思いっきり軽薄に、「森繁最高! こんな凄いもの知らないなんてあなた損ですよッ!!!!」とか、ここに書けたらいいなと思う。
 ただ私は、さほど森繁久彌をすごいと思っておらずとも、「みんなが凄いといってるから」みたいなイージーなノリで「森繁先生」と呼び、「巨星堕つ」「ひとつの時代の終わり」なんてスラスラ書ける人が、あまりに多くいるような気がしてならない。それが、気持ち悪いのだ。



○簡単に市川容疑者に関しての付記
 この日記はさかのぼって書いている。
 14日の時点で「事件については沈黙を続けており、雑談にもほとんど応じず、食事にも手を付けていない」とのこと(産経ニュースより)。
 ずーーーーっと黙秘。食事も取らないままで、医師の診察も行われた(異常なし)。
 被害者であるリンゼイさんとご家族には申し訳ないが……ある意味、「すごいね、あんた」という気持ちが正直なところだ。ものすごくネガティブな「不屈のひと」だと思う。
 2年7ヶ月逃げた。逃げるために顔を変えた。そのために土木労働をした。供述によると、整形後の4日間は人目を避けるために路上生活をしていたという。な、なんとまあ……。
 絶―――――――――――――ッ対に捕まりたくないわけね。このひと、相当なナルシストだったと思う。それが「顔を変える」なんて、ナルシズムより「捕まりたくない」が先行するというのは……どういう「意地」だったのか。
 リスクヘッジ、得意そうだと思うんだがなあ。殺人及び死体遺棄の時効、そこまで逃げおおせることと、初犯での量刑なんか、すぐにでも比較しそうに思えるのだけれど。
「それでも私は捕まりたくない」
 そういう意味では、本当の「悪」じゃない。心底腐っていたら、そういった比較をして、自分に利益的なほうを取るだろう。絶対に捕まりたくないと、彼の心に鞭打たせたものは、なんなのか。リンゼイさんは、そういった彼の心の底にある「何か」を刺激してしまったのか。
 いずれにせよ許されることではない。けれど、「ここまで逃げる根性があるなら何だって出来たろうよ」というごくごく普通の感慨を抱くにつけ、その「根性」を彼から引き出したものが気になってならないのだ。



○さらに付記

 上の写真、連行される市橋容疑者ですが……出るんじゃないかなあ、と思っていたらやっぱり「けっこーイケメンじゃん」みたいなブログがチラホラあったよう。素直で結構ですが、あのねえ、いくら本名出してないからってそーいうあまりにも下品なこと書いちゃいけませんよ。そういうことすると顔と目にバカが出ます。ホントに。



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