『スタジオパーク』にて・前編


 私はその日、東京の渋谷はNHKスタジオにおりました。『スタジオパークからこんにちは』という番組をご存知でしょうか。お昼にやってますね、ゲストをひとり迎えてのトーク番組。
 私はこういうシンプルなトーク番組が大好きなので、毎週HPでの「来週のゲスト」チェックを欠かしません。はい、もちろんテレビ朝日が誇る長寿番組、誰かの訃報の際は必ずこの番組出演時の写真が使われる『徹子の部屋』も同様です。余談でした。
 先週、私は驚愕していました。「金曜日の出演:若尾文子」。この文字を見たときに!


 私は焦っているのです。
 簡単にいって、「この人に会ってみたい」と思っている人々がどんどん、歳を重ねられている。私はインタビューの仕事もしています。駆け出し3年目のライターにしては、これまで幸運にも様々な方に会ってお話を聞くことが出来ました。映画やテレビの黄金時代の作品に、ひとかたならぬ興味と愛着を持っている私は、その「時代」に関わった人たちに直接、会ってみたい、話を聞いてみたいという強い思いがあるのです。なんだか変に真面目な口調ですが、そういう方たちは失礼な話、いつなんどきどうなるか分からない。それは老いも若きも人間共通ですが、やはり気ははやるもの。そう、チャンスを待っていても仕方ない!
 もちろん、今回は単なる観覧者。話が出来るわけではないけれど、そのひとが持つ実際の雰囲気というものを、この目で確かめたい、肌で知っておきたい!!
 そんな気持ちが「出演・若尾文子」という文字を見たときに、プワーーーーーーーーーーーーーッと湧き起こりました。ああ感情の瀧の白糸。今思えばあれは、アドレナリンが間欠泉のように体内で放出されていたに違いありません。
「こうしちゃいられない!」
 そんな気持ちで、はい、並びました。ええ並びましたとも(笑)。でもこの観覧、抽選なんですね。最初は「2時間前ぐらいから並んだろか」ぐらいの意気込みでしたが、訊けば
「昼の12時までスタジオに来て、抽選で決まります」
 とのこと……。

●苦しいときの先祖だのみ
 
 紆余曲折は省いて、当日12時!
「それではみなさん、この箱から1つコインを取ってください。ハズレには何も書いてません。アタリには番号が書いてます。その番号が席順になります!」
 私はクジを引く順が、結構あとのほうでした……。これ、抽選とはいうものの、最初に来たひとから並んでクジを引くんですね。つまり最初のほうがそりゃアタリは多いわけ。
「抽選ですので並ばれても並ばれなくても一緒ですよー」
爽やかにそういったあのNHKスタッフの小娘め……そんな呪詛を心の中でつぶやくたび、「ダメダメ、こういうことでは絶対に落ちる! 日頃の善行がこういうときモノを……」などと今更考えても詮無いことばかり去来します。落ちたくないよう。落ちたらどうしよう。どうしようもないのです。しかし気持ちはアプセットするばかり。ああ、思い出しても手に汗が滲んできました。
「ハズレです」「残念、ハズレでした〜」
 前方のひとがハズレを引くたび、また湧き起こる黒い心。「よし、これでこっちの確率がアップ……」などとまたしても考えてしまう自分……順番を待っている間、何度私は軽い自己嫌悪に襲われたことか。そしていよいよ私の番に!
「おじいちゃん、おばあちゃん、よろしくお願いします!!!」
 クジ箱の中に手を突っ込んだ私は、本当にこんなことを無言で絶叫していました。祖父・竹司も祖母・イセも「こんなときばっかり」と苦々しい思いでいっぱいだったことでしょう。
 中をかきまわすうち、フッと手に渡されるような感触で、一枚のコインが手のひらに入り込んできました。まるで、おばあちゃんがお小遣いをくれたときのような感じで……。
「これだっ!」
 引き上げた私の手に入り込んだのは、な、なんと「1」の文字。
 そう、1番目の席順なのです! 入ってみれば中央センターカメラ横。若尾さんのまん前。
「神よ……」
 さっきまでご先祖様にすがっていたのに、「1」の文字を見た瞬間浮かんだ言葉がこれ。さすがに反省しました。すぐさま人のいないところにいって、竹司とイセに御礼をいいました。ありがとうおじいちゃん、おばあちゃん。なんということでしょう、こんなに文字数使っておいて、まだ肝心の若尾文子さんは登場していません。この後も色々あるのですが、すべて省略!

 はい、あんまりにも長いので、若尾文子拝見感想は明日。久しぶりの前後編だな。

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