『御名残四月大歌舞伎』その2

 もう歌舞伎座内、写真を撮る人だらけです。
 まあねえ。千穐楽だもんなあ。せんしゅうらく、ね。「千秋楽」だとどうにも感じが出ない。1年続いたさよなら歌舞伎座興行、これがホントの最後の千穐楽

 入り口から見れば道路はカメラに携帯片手の人ばかり。中でもあちこちでストロボがたかれまくり。
「奥様のお写真はおやめください! お客様っ!!」
 ロビーでは係員のこんな声が飛び交っておりました。ちょっと殺気立つ瞬間もあってスリリング。まあねえ。客もハイになってて「わー富司純子だ!」とカメラ向けたくなる気持ちは分からんでもないが……ちょっと浅ましいほどに目の色変えた人もチラホラ。
 なんていうか……「昆虫マニアが南の島に来て採集したいものだらけ」みたいな「目」になってんですね。「ちまなこ」っていうんでしょうか。
 しかし何を言っても本興行は今日が最後。チケット取れただけで嬉しいってのも分からんでもない。私も……一度たりとも興味すら持ったことのない「佃煮売り場」とかで、「ああ……せっかくだから一度ぐらい買ってみてもいいかも…」と変な仏心出したりして。「最後だもの、食べてって!」なーんていわれると「おばちゃん……ほんとうに、ご苦労様でした…」なんてシミジミ思ったりして。買わなかったけど。
 この日は最後に三階に行っておきたくて(大昔に一度だけ行ったんだけど、どんな風だったか記憶もあやふやだったので)、仲良しの中村蝶紫さんのとこでちょっと開幕前にお喋り。隣に新しい松本流の部屋子さんがいた。すごく優秀という噂の彼。礼儀正しくて、さすが。


 ちなみに写真は歌舞伎座・未来予想図。こうなるんだって。ふうん……へええ……。

 さてさて、第二部の感想もザッと。



1:寺子屋

 「源蔵戻り」から。
 個人的に一番感激したのが、勘三郎の戸浪。
 素人の根拠のない推察ですが、戸浪って「やること」がとても多い役なんじゃないのかな。すごく「段取り」になりそうな役だと思うんだが、それがまったく見えない、素晴らしい戸浪だった。この女の「日常」というものが垣間見える凄さがあった。
 大体の「仕事」が夫の手助け、松王夫婦への世話だったりするんだけど、それがとても自然で。着物を出したり、何か小道具をかたしたり……そういう細々をしている間にも、役の性根が消えない。この女は平生、いつもこういうことをやっているというのが浮かんでくる。また、捨てセリフみたいなところでも「女房」を感じさせて……「ンまいねぇ」「うまいっ!」と連発したくなる戸浪。
 すっごくね、夫である仁左衛門を立てて、気遣っているんですよ。心が寄り添っている。まさに女形の鑑のよう。ああ、もっと中村屋女形が観たい! 娘、いいもんなあ。お三輪なんて観てみたいよ。
 最後、定式幕が閉まる寸前、戸浪はしゃくり上げた。哀しみのしゃくりだったと思う。最後の最後まで役が消えない、入念の芝居だった。
 

2:三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場


 おとせ役の中村梅枝(写真右)!

 いいねえ。いいねえー。いいねえええ! いやー声がいいね。芝居もいい。私は不勉強でノーマークでしたが、こんなにいい女形さんだったっけ!? 先の国立劇場での『藤娘』、見逃しちゃって損したなあ。可憐で品が良くて(夜鷹ってこういう感じでいいのだろうか、とは思うんだけれど)、後に菊五郎のお嬢吉三がおとせを殺すところで、「かわいそうだなあ、ひでえことするなあ!」と菊五郎が憎くなった。嫌いになった。こういう気持ちは初めてだ。新鮮な感覚だ。あまり、おとせは上手な人にやらせないほうがいいかもしれない。

 この演目、「春も朧に白魚の」ってな名セリフで有名な芝居。「こいつは春から縁起がいいわえ」ってなあれですね。
 こういうの、昔の本とか読むと一杯やって気分がよくなって諳んじて楽しんだり、という情景が出てくるが、いったいいつ頃の文化なんだろう。いつ頃まで珍しくないことだったんだろうか。少なくともうちの60代の父の頃は珍しかったんじゃないかと思うんだが……はてさて。
 いや、よく「フランスでは有名な詩を学校で暗記させます」なんていわれたりするでしょう。最近はどうか知らないけれど。日本の文語調教育って、こういう芸能の部分が担ってたところがあるんじゃないのかな、と。
 文語の名文句。つきつめると意味分からないこと多いし(というか掛け言葉、リズムをそろえたり、韻を踏んだり、演技のいいシャレだったりするだけのことも多いし)、自分で作ってみろっていわれたら難しいけれど、「口に出して」言うと、あら不思議、楽しいものなんだよね。ノドに口に快い、面白い感覚。こういうの、もうちょっと見直されていいと思う。


3:藤娘


「歌舞伎界のベンジャミン・バトン」こと、坂田藤十郎の『藤娘』。
 どーーーーーーーーーーーうしてそんなに老けないの。元気なの。艶やかなの。素ッ晴らしい。役者に歳はないが、1931年生まれなんだぞ(大晦日の生まれらしいので、実際は32年計算だろうが)。
 そんなことが嘘の如くまあ闊達とされてました。それも『熊谷陣屋』の相模をつとめたあとですよ。すごいなあ。
 この方、足が外輪(そとわ)になっても「女」が消えない。芸の力だ。


<参考資料・坂田藤十郎

つやっつや。



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