『悪人』&『オカンの嫁入り』

ゆうゆう 2010年 10月号 [雑誌]

ゆうゆう 2010年 10月号 [雑誌]

 発売中の『ゆうゆう』(主婦の友社)の映画欄にて、今月は『悪人』を紹介しています。

 今週末公開、主演、妻夫木聡、監督、李相日、原作、吉田修一

 この映画を試写で観て、最初にツイッターにつぶやいたのが以下のもの。

「試写にて『悪人』を観た。心をわしづかみにされた。いま胸の中に大きなものがありすぎて、感情過多で、とめどなく思いが溢れてくるようでもあり、思考が止まってしまったようでもあり、1Fのソファにぼんやりとさっきから座っている」



 この作品にやられちゃったんですねえ、私。どういう点にかは『ゆうゆう』をご覧頂きたいんですが、映画を観たら原作にも強烈に興味が湧いてしまい、文庫本2冊をすぐ購入。
 映画のこともからめて感想をツイッターにのせたので、それもちょっと転載しておきたい。

『悪人』(吉田修一)の感想を。まず、本当に見事な、巧みな映画化だったんだなあと感心することしきり。もっと登場人物がいて描かれるサブストーリーも多いんだけど、その中から映画的に必要最小限なエッセンスを潔く選び抜いている。ラストも違う。監督がきちんと小説を料理しているのが嬉しい。


『悪人』・2 有吉佐和子の『悪女について』のように様々な人々の証言が連なって描かれる。筆致は淡々として登場人物全員に公平で、距離を置かんとしているかのよう。けれど唯一、殺される女の同僚・眞子の描き方が、思いが、濃い。吉田修一というひとの本質は眞子に一番重なるんじゃないだろうか。


『悪人』・3 本当に岡田将生は名演だったとしみじみ思い返す。「悪」というのは花火みたいなもので、ショックを伴って一瞬に炸裂し、ある種の美しさをみせて消える。そういう意味で本当に彼の表現した「悪意」は鮮烈で嘘がなかった。小説でそのくだりを読み、このシーンの芝居化は難しいなと再確認。


『悪人』・4 「素人の娼婦と娼婦の素人なら、どちらがエロティックだろうかと林は考えた。どちらにしろ女に変わりはないが、何かが大きく違っているような気がして仕方なかった」唸らされた一節のひとつ。満島ひかりはここを非常に良く理解していたと思う。


 俳優の力をすごく強く感じた一作でした。映画脚本は原作者の吉田修一と監督の共同執筆。どの部分を捨て、どこをより強く映画としてみせ、さらに異なるラストをどのように二人が生み出したか……想像するのもまた楽しく。
 必見ですよ……と、書こうと思っていたら、今日この日に、主演者のひとりである深津絵里モントリオール映画祭で最優秀主演女優賞獲得のニュースが!


 うーん、なんだかすごく、すごく嬉しいなあ。モントリオールに向かって「お目が高いっ!」と叫びたいような気分。

 深津さん、おめでとうございました!



○『オカンの嫁入り

 そして先週末から公開中の呉美保監督、宮崎あおい大竹しのぶ主演のこの作品、劇場用プログラムとプレスに載っている3氏へのインタビューも担当しております。
 日頃あるものの大きさ、かけがえのなさを淡々と、そして押しつけがましくなくしみじみと描いている作品です。こちらもぜひ!