過日、東京国際映画祭にて

 ひとつ、気づかされた。
 私は今まで宝石というのは、それ自体が光を乱反射して輝くものだと思っていた。

 違うんですね。
 宝石というのは本来は、着ける人自身から発せられる光を反射し、輝くものなのだ。カトリーヌ・ドヌーヴという女優を目の当たりにする機会に恵まれたが、このことを思い知った。思い知らされた。
 ちょっと前のことになっちゃったが、東京国際映画祭でドヌーヴの舞台挨拶があり、私は運良くドヌーヴのほぼ正面、2メートルちょい至近距離の場所を確保(10月10日のこと。我ながら「女優運」だけはいいと思う。以前の若尾文子のときもそうだったし→参照はこちら)。





 うーーーーーーーーん……凡庸な言い方しか出来ない自分が情けないが、本当にもう「入ってきた瞬間に明るくなるような」って感じでした。「ルクス」でいったらどれくらいなんだろう。綺麗とか華やか、というよりもうとにかく「ビカーーーーーッ!」となる感じ。
「まばゆい」と同時に「気圧される」ような感じを伴っていて。歌舞伎とか日本の舞台の言い方でいうと「押し出しじゅうぶん」ってんですかね。そのディグニティに、入ってくるなり圧倒された。

 この会見後、「もう太っちゃって」だの「たるんじゃって」などと、「見た」ことしか言えないひとも多くいたと思う。そういうひとは、「観て」いないのだ。カトリーヌ・ドヌーヴというひとが発していたその光を。
 激しくたかれるストロボ、そして強いライト。彼女は指と耳に大ぶりのジュエリーを着けていたが、それら自体が煌くというより、どーーーにも彼女自身の内なるところから発している光によって乱反射しているように思えてならなかった。
 宝石というものは本来「増幅器」なのだ。装飾品であって展示美術品ではない。名工によってカットされデザインされた歴史的宝飾品の数々を美術館・博物館で観てきたが、その真価の何分の一も分かってなかったのだろうなあ。そんなことをまず強く感じたドヌーヴ様ご拝観でした。




 もうひとつ。
 彼女の横顔―――額、鼻梁(びりょう)、そして唇にかけてのラインが、大好きなブニュエルの映画『昼顔』の有名なスチールそのまま。そのままだった。
 当たり前なんだが……もうね、「ああ、私の前に歴史が、伝説がいる.―――――――!」ってな感じで。そう思った瞬間、ははは。胸が不思議にざわめいて、ときめいて、バクバクしてしまいました。
 そりゃあね、確かにアゴから先は別人だ。けれどそれは私には「劣化」ではなくナチュラルに「年輪」と思えるのだ。
「豊かさ」と言い換えてもいい。
 女優でありスターである「感触」を残しつつ、このひとはうまく俳優へ変態を遂げたひとだ。そのことに対する自信が、肉づきなどを屁とも思わないディグニティとして漂っている。「今の私」に対する揺るぎない自信。
 こういうことは映画での彼女を観ていると強く感じる。この日は日本でも人気のフランソワ・オゾン最新作『しあわせの雨傘』(2010年1月公開)が上映された。もちろんドヌーヴ主演。素晴らしかったですよ! これは映画評を担当している雑誌『ゆうゆう』(主婦の友社)で紹介する予定です。こちらは12月27日発売。読んでね。





 カトリーヌ・ドヌーヴというひとの稀有さは、天賦の美貌を征服したところにある。
 今回、つくづくそう思った。美貌に恵まれる人は少なくないが、それを活かせない人、のみ込まれてしまう人が99.9%だ。ドヌーヴのすごさは、そこにある。色気や華やぎをまだ兼ね備えた「征服者」に、加齢や体の線の崩れなんかのことを唱えるひとがいるとしたら、それは何と矮小なことだろう。




【余談】
 この日、真矢みきがサプライズゲストで登壇。


(写真は関係会社の許可を得て掲載しています)

 やっぱり出てきた瞬間、「あきらめないで!」って思ってしまいますね。“N'abandonnez pas ! N'abandonnez pas ! ” やっぱりドヌーヴ様に「茶のしずく」を差し入れされたんだろうか。
「これ、とってもいいんです。使ってみてください。カトリーヌさん、(一拍おいて)あきらめないで!」
 瞬間平手打ちでしょうね。まあ妄想はさておき、しかしまあすごい存在感でした。何度も使ってしまうが「ディグニティ」というより他ない。なんていうか……雲の上にのってシーツみたいな長布まとってもギャグにならない数少ないひとりだと思うもの、マジで。ギリシャ神話に出てくる「ヘラ」の役とか似合いそう。
 このこと、別のときに書こうと思っていたが、カトリーヌ・ドヌーヴって若い娘時代からこちら今まで、およそギリシャ神話に出てくるほとんどのヒロインを演じられるぐらい、そのイメージが変わってきたなあ、と思う。言い換えれば役の幅をものすごく広げてきた、ということだ。
 若い頃ならゼウスの寵愛を受けるレダ、そしてアフロディーテ、今ならヘラのごとく。さらにはゴーゴンやメドゥーサだって出来るだろう。だからなんだって話だが、女神と神話を演じられたら女優は超一流だと思うので。