2月のまとめ・その1


●2月4日、銀座シネパトスにて『首』

 昨年9月に亡くなられた小林桂樹さんの追悼特集、これを観たことを書きとめておきたい。
 4日は最終日だった。

銀座シネパトス小林桂樹特集、『首』。正義を追う余り妄執に囚われた弁護士の話、と思いきやちょ、ちょっとビックリだよこの展開! タイトルそういう意味だったのか…。桂樹、下川辰平南風洋子、北竜二という激渋メンツで織り成される芝居が見事。特に南風洋子、すばらしい。

 これが観た夜のツイート。
 実在する正木ひろし氏という弁護士を演じてるんですね、小林桂樹。1968年、森谷司郎監督で東宝作品。冤罪事件を追う弁護士が執念を燃やす、というより妄執にとらわれてゆく。不正を証明するためにある非常にイリーガルでリスキーな行為に出るんですが、これが完遂するまで実に長いこと「冷や汗かきっぱなしの桂樹」とつきあわなくてはならない。
「冷や汗かいて焦ってドキドキしてる桂樹」これがねえ、いい「みもの」なんですよ。なーーんでこんなにもそれだけで「みもの」になっちゃうのか。
 ハラハラしてるだけでリアクションが少ない役ってのは、すっごく難しいと思う。つまらない役者がやると飽きちゃうというか、ノレない。こちらがドキドキしなくてはならないのだもの。テクニックとキャラクターの両方で素質がいるというか。

 東宝の伝説的プロデューサー、藤本眞澄さんに訊いてみたい。
『めし』上原謙原節子をして「美しい人がわびしい生活をしている、というのに観客はひかれるんだ」(正確じゃないです。昔何かでこんな発言を読んだ)と狙いキャスティングしたひとは、「冷や汗桂樹」の効果をどう分析するだろう。

 そうそう、ひたすら耐え忍び不憫なオーラを地味に確実に発する南風洋子が素晴らしかった。このひと、不思議に「菅井きん」と「藤村志保」がミックスされた感じがある。それから解剖医の大滝秀治! 「きゃーきもちわるいい」と叫びたくなるような「肌感」の演技。すっごい変態くさい。すばらしい! それから「首切り職人」みたいなひと出てくるんですね。もうこれご覧になったか確か分からないだろうが、蓮池透さんと長塚圭史さんに似ていると思う。はいごめんなさいごめんなさい……。


 この日は二本立て、もう1本は『日本沈没』だった。
 1973年、森谷司郎監督で東宝作品。さっきと一緒。当時メガヒットしたんだそうだが、悲しくなっちゃうぐらい、私はノレなかった。つらかった。おいてけぼりよ140分。
 小林桂樹の田所博士も「はまり役!」という世評のようなんだが、いかにも「作りこみました!」という仰々しさがあって、つらい。やってる役者が一番楽しそうなタイプの演技に思えてならず。
 当時を知るひとに、どんな熱狂をもって迎えられたのか伺ってみたい。