2月のまとめ・その2

 もう公開になってますね、カンヌでパルムドールを獲った『ブンミおじさんの森』。
 私は、かなり好きだった。
 心をまかせていくタイプの映画。誌や短歌を、さほど意味がわからずとも目でつらつら追っていくような楽しさ、心地よさがある映画だったと思う。

 試写で拝見させてもらった日の感想ツイートがこちら。

ブンミおじさんの森』試写。国も何も違うけれど、ルソーの絵を見ているような気持ちになった第1主題。そしてこの感触、ある種の落語を聞いているような気にもなる。同時に古事記を読んだときの感じも思い出す。また「ささやななえ」のある時期の作品から怪奇味を拭ったような味わいも。

 何パートかに分かれているんですね、この映画。
 最初のパートはタイの森の中。人々の暮しが営まれるなか、霊や獣人のような「ものもの」が現れる。田舎で、隣近所の人が夕餉に知らず参加していつしか紛れてるようなノリで、みんなが一緒にいつしかいる。共存というよりも、ただ「混存」という感じ。何もかも波立たず静かに話と時間が過ぎてゆく。
 何かすごく懐かしく、肌に近い感触だった。「お盆」が目に耳に知覚できたらこんな感じなのかなー、と。

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 2月に拝見したこれから公開の映画だと、ほかに『キッズ・オールライト』が素晴らしかった。

 アネット・ベニング、そしてジュリアン・ムーアレズビアンカップルを演じるドラマです。アネットはこの作品でアカデミー主演女優賞にノミネート(受賞はナタリー・ポートマン、過去のノミニーも含めて、本当に彼女はツイてない。ウォーレン・ビーティに手綱つけた時点で強い運勢を使い果たしてしまったじゃなかろうか)。いやまあしかし、アネットは素晴らしい演技だったんです本当に。『バグジー』から観ているが、はっきりいって……好きじゃなかった(笑)。なーーーんか虫が好かないというか。まさかねえ、彼女に泣かされる日がくるとは。
 私は「家族」というものを描いた作品ではここ10年のベストの1本じゃないかとすら思ってます。

 当日のツイートを添付。

キッズ・オールライト』試写。素晴らしかった。主人公はレズビアンカップル、精子提供でもうけた二人の子供、精子提供者。そういったシチュエーションとプロットの妙をすべて超えて、「家族」というものの普遍と玄妙が見事に、鮮やかに描かれている。皆いいが、特にアネット・ベニング


 これが観てすぐのもの。そしてしばらくおいて、まとめ。

キッズ・オールライト』1:レズビアンの夫婦、そして人工授精で授かった子供がふたり、もうすぐ16歳になる少年と19歳になる少女。こういった設定から想像されそうな展開やイメージを超えて実に普遍的な、家族という人間同士の繋がり、絆を描いた素晴らしいドラマになっている。


キッズ・オールライト』2:まず子供の描き方が秀逸。凡庸な演出ならイージーに感情的に描きそうな所を実にいい距離で描く。そうそう、子供時代ってアグレッシブであると同時にとてもオフェンシブで、過敏と図太さを備えてるもんだよな。その間を揺れ動き、揺り動かされる。それが静かに伝わってくる


キッズ・オールライト』3:思春期ならではの心の揺れ、そして思春期の子供を持つ年代の親が、女が、男(的立場の人間)の心にすべり込みがちな惑い、迷い。そういったものがこの映画の主題であり、レズビアンだから、その子供だから、という視線で問題を問題視しない。そこに「も」感動した。


キッズ・オールライト』4:そういうことはもうひとつ「クリア」された家庭なのだ、という視点も感動的なんだが、もうシンプルに家族というものの描き方が素晴らしかったからだ。


キッズ・オールライト』5:ほどけそうになる絆を「離したくない」から結び直す。拒絶されても傷ついても諦めない。なぜ愛する人を傷つけてしまうのか、許して、という問答の繰り返し。差異を超えその姿は間違いなく自分も通ってきた家族の道と同じだ。2時間でこんなに他人の家族を近しく思うとは。


キッズ・オールライト』6:と、いうドラマを素敵なコメディセンスでデコレーションしてくる。この「飾り方」のテンポと趣味の良さ、もうサイコーだ。そして「レズビアンカップルならではなとこも知りたいでしょう?」的な監督のサービス精神も。すばらしい。リサ・チョロデンコ監督に喝采を。