谷崎の食風景・その2
- 作者: 渡辺たをり
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2000/09
- メディア: 文庫
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さて、2日前につけた谷崎の食風景メモの続き。
<夏>
「ぬか漬けのきゅうりやなすがおいしく感じられるとそろそろ夏」
という書き出しで始まり、
「夏は鮎からやってきます」
とある。
谷崎は鮎は塩焼きのほか、雑炊が好きだったという。うーん…頂いたことないなあ。ポピュラーなものなのだろうか。
その作り方に意表を突かれた。お粥を炊き上げ、生きた鮎をパッと放り込んで蒸らすものなんだそう。ダ、ダイナミック! 一体どんな仕上がりになるのだろう。
続いて、
「じゅん菜…生で食べられる時期は短くて、六月いっぱいぐらい」
酢の物にしたり、おみおつけに入れたり。一度、沼からの採れたてを食べてみたいものだ。秋田の方々はよく食べられると先日の取材でも聞いたが、おみおつけにも入れるんですね。
味噌汁は日本人の一番身近な「食の歳時記」だったんだと思う。と、過去形で書かざるをえないのが悲しいけれども。
そのほかに茗荷が挙がる。
漬物に酢の物、「おゆつの浮き身」、お味噌汁に。茗荷もすっかり季節感のないものになってしまった。また春から初夏にかけては「花くじら」を楽しんだとも。くじらの尾びれを薄切りにし、湯引きしたものだと思うんだが、これも今では稀なものだろう。
そしてやはり、鱧。これは京都のお祭りの時期、盛夏のものと。おとし、たれ焼き、塩焼き、ぼたん鱧、鱧寿司……谷崎は現代の鱧を食べたらなんというだろうか。
続きを読む桂枝雀、桜満開、俳句メモ
夕飯の支度をしつつ『桂枝雀落語らいぶ4』より「饅頭こわい」を聴く。
この有名な噺、初めて聴きました。35分もある!
いい歳したおっさんが集まって他愛もないことに熱中していく…というパターン、これを洗練させ都会的にし尽くしたのが小津後期の作品だよなあ。そのほかにも、いろんなブランチがあるだろう。これ、もう誰か本にまとめてるんでしょうか?
この「饅頭こわい」って初めて聴いたけど、難しそうだなあ…筋とサゲは本当にくっだらないものねえ。ここに作品が本来持っている愛すべきチャームをテンポとメリハリをもって再生させるなんて、至難の業に思える。ある意味ベートーヴェンの後期ソナタを弾く難しさに通じるような。
カップリングは『崇徳院』。関西弁ってポリフォニックだなあ。桂枝雀という人の繰り出す言葉の音色の豊かさに圧倒される。スフォルツァンド・フォルテからピアニッシシモまで、ハイキーから重低音まで意識的に使い分けてるんだろうけど、言葉のオーケストラ。そういう愉しさ。
桂枝雀が興奮したキャラを演じて「ハァ…ハァ…」となってるときの面白さってなんなんでしょうね。ゲラゲラ笑っちゃう。子供のときテレビみてて笑ってた気持ちが甦るような。ファナティックな人間を演ってるときの枝雀って本当に凄いなあ…まだ枝雀6つぐらいしか聴いてない。楽しみ。
とりあえず、一日一句。溜まらない内につけておこう…(;´∀`)。谷崎はまた次にでも。
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前回につけたこの本から、晩年の谷崎が愛したという食の風景をメモしておきたい。
【春】
熱海に移り住む前の京都・北白川の家の庭にはたくさんの野菜類があったよう。筍にはじまり、土つくし、ふきのとう、蕨、青じそ、赤じそ、三つ葉…とかく葉物、薬味には困らなかったとある。
「クレソンを裏の湧水に差しておくと勝手にいくらでもふえました」
「ふきのとうをつまんでおみおつけの実にしたり」
うーむ…なんと羨ましい。ふきのとうの味噌汁って私は食べたことないなあ。いまのうちに真似してみようか。ただスーパーで売っているものと地採りのものでは香りがまったく違うから、谷崎の味を知る手掛かりにはならないだろう。
そしてこの京都の家、洋野菜を栽培する農家の方がよく出入りしていたそうで、エンダイブ、ラディッシュ、チコリ、ブロッコリー、オクラなども当時から食卓に上っていたという。
この渡辺たをりさんは昭和28年の生まれ、10歳としても昭和38年ぐらいだろうか。作っているひと、その頃からいたのだなあ…残念ながらどんな風に食されていたかは書かれていない。そういうこと、編集者はぜひ聞いて補足して頂きたかったと思う。
このほか春の味として若竹煮が挙げられ、谷崎家の女たちは「ニキビが出るしもうやめとこかしら」などと言っては好んで食べていたという。名作『細雪』のモデルとなった人々がいかにも言いそうなことで、情景を想像しては楽しんだ。
大谷崎は食事の際、家人がきちんと身なりをととのえて、女の人はお化粧も直して席に着かねば機嫌が悪かったという(!)。映画『細雪』の冒頭、吉兆の会食のような美しい光景が目に浮かぶけれど、さぞかし大変なことであったろう。もちろん、お手伝いさんがいてのことだったろうが(『台所太平記』に描かれているようなお手伝いさんたちの話もこの本にはたくさん出てくる)。
さて、続きは次回に。
○一日一句
3/14
菓子えらぶ男の背中ホワイトデー
3/15
取り入れた衣におまけ足長蜂
※啓蟄をすぎたら本当に虫が動き出すというか…こんなに驚いたのも久々でした。
刺客あり衣にひそみし足長蜂
3/16
蘖や心にもあらんと思う朝
※蘖(ひこばえ)樹木の切株や根本から萌え出でてくる若芽のこと、なんだそうです。歳時記を読んでいると本当に飽きません。
3/17
春の野辺花粉しらずの天下かな
『花は桜 魚は鯛 谷崎潤一郎の食と美』
『花は桜 魚は鯛 谷崎潤一郎の食と美』(ノラブックス版)を読んだ。
- 作者: 渡辺たをり
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谷崎の孫筋にあたる渡辺たをりさんの本。谷崎が晩年愛した食模様が詳述されて面白い。四季の食、花見の宴の菜、贔屓の店々…現在では長老格の板前さんが「ちゃん」づけで登場するのも興味深く。また、たをりさんが習らされたという当時の井上流の稽古模様、これが私にはまた印象的だった。
谷崎がたをりさんを命名する際、他の候補が「鳰子(にほこ)」「凪子(なぎこ)」「千沙子」「美すず」だったというのも興味深い。遠野凪子は自分の名前が谷崎センスでもあったことを知っているだろうか。平仮名にしてしまったけれど。
そしてたをりさんの従兄弟には「桂男(かつらお)」「衵(あこめ)」と命名したという。「撓(たをり・たわ)」「衵」という言葉と意味、今回初めて知ったなあ。
そしてこの渡辺たをりさん、夫が「夢の遊眠社」立ち上げメンバーの高萩宏さんなのだそう。おじいちゃんが遊眠社を見たらどう思ったか…ということを書いてあるエピローグも面白く。「玉三郎にも間に合わなかった…」見せたかった、と。玉三郎など谷崎が観たらなんと記したろうなあ。短編でも書いたかもしれないと想像するとワクワクする。
ちなみに、谷崎翁は『ウェストサイドストーリー』が嫌いだったそうです。腹を立てて途中で席を立ったとある。
あと今回、春川ますみが谷崎の葬式で弔辞を読んでいたことを知った。高峰秀子が読んだのは知ってたけど、それほどにお気に入りだったのか、ますみ。近年は一切公の席にお出になってないようだが、お元気なのかなあ…すごく好きな女優さんです。素晴らしいユーモアのある芝居をされる方。
明日は谷崎が愛した四季の食卓の味を、この本からまとめてみたいと思う。
○一日一句
3/11 この日は、詠まずにおきます。
3/12
花びらや梅は近くにあらねども
3/13
二十日後の満開をたのむ花誘い
二十日後と踏みし花見の誘ひあり
誘ひ来ぬ花よいざ咲け二十日後に
夏陽気から煙霧、そして冬戻り
日曜日の天気、一日でこんな変化って今まで私は体験したことあるだろうか。まさに天変というが如く。
まず正午すぎまでが都内平均24℃! この夏めいた陽気を楽しんでおきたくて近所を散歩。その道すがらで見つけた花々です。モクレンが開き始めたのはアガりますねー。梅が咲いて、沈丁花が咲いて、木蓮が開き始めたら春本番という気がする。クロッカスがなんと鮮やかに咲いていたことか。梅散らしの強い風の中、上原付近を原ウロウロ。中華の『ジーテン』がしばらくランチを休む、との張り紙あり。
そして帰り道、一瞬町がボウッと黄色く煙ったように見え出して…Σ (゚Д゚;)
家に着いてネットを見れば、ツイッターのタイムラインではこんな写真がたくさん。
(新宿御苑上空)
東京のあちこちが靄につつまれたかのごとく。
「黄砂だー!」「いや、土埃らしい」「春霞だろう」「映画『首都消失』だよ!!」「ちがうよ『ミスト』だよバケモンくるぞ」「黄砂に〜吹かれて〜♪」「だから黄砂じゃないっつうの」
そんなこんなの文言があれこれと。工藤静香の動画がたっくさん貼られてました。石川秀美『春霞恋絵巻』もあるかと思って検索したら、4件。出た方だと思いますw
しかしホントに一瞬にして空が曇って暗くなったんだよなー、驚きました。軽い非日常感。
NHKのネットニュースでこれは「煙霧」という現象で、地表の土やチリが巻き上がったものだと説明されて一同「へーえ…」となったものの、確かに空が全体的に黄色っぽかった。ネットでは「きなこじゃないか」という説があって笑ったけれど。
その後、一挙に気温が下がりまくり、あっという間に7℃ぐらいに。夜は真冬に逆戻りで風、強いのなんの。近所の鶯谷町の友人のところに行ってたんだけど、帰り寒かったなー!!
昼間は初夏で夜は暖房復活。体調崩す人多いと思う。花粉症の人は相当苦しんでいるよう…。
今週は気温のアップダウン激しそう。気をつけなければ。
明日で震災から、2年。
○一日一句
3/10
梅が散る“さくらさく”と泣く母娘あり
■
○一日一句
3/7
めでたさは花粉次第かみなの春
担当編集さんと打ち合わせ飲み。彼女はものすごく花粉に悩まされていて、見ていて気の毒なほど。「春は好きなのに…」と涙をぬぐっていたのが印象的でした。
3/8
季題から実感となりし水温む
「水温む」という季語があるんですね。俳句に興味持ってはじめて知りました。もっと早春から使ってよいものなんでしょうが、どうにも使う気になれず。『銀座百点』3月号の句会でもお題になっていましたが、ようやくこの日実感できた次第。暑いぐらいの日でした。半袖のひとを結構見かけたなあ。神田で『テレビブロス』おお仕事でインタビューに赴いておりました。
3/9
待ちわびた思いはいずこ春暑し
「春暑し」という季題もあるんですね。歳時記を読んでると面白いなあ。二日続けてうららかも通りこした日々。桜、早まるだろうか。そして花粉症、私はほどんどないのですが、昨日今日はさすがに涙が出て鼻の奥が変で。ひどくならないといいのだけれど。