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　きっかけは、「山茶花究」だった。
　昔の俳優さんなんですが、「さざんかきゅう」と読みます。

　そう、「3×3＝9」。
　この名前を知ったとき、思わず「ヘナッ」っと力抜けました。森繁久彌の映画か、川島雄三の『女は二度生まれる』か、何でこの人を知ったか思い出せないが……なんとまあ、体を張ったギャグでしょう。
　芸能人で名前といえば看板も一緒。平成の御世でさえ、姓名判断に大枚を払う一部芸能人だっているというのに……こんなフザけた名前をつけちゃうなんて！
　今すぐタイムマシンで会いにいって
「どうしてこの名前にしたんですか？」
　と訊きたくなる。
「シャレよ、シャレ」
「別に。思いつき」
　サクッと、そう言ってくれそうなんだこの人。「さざんが」を花の「山茶花」にしちゃうところが、華もあっていいじゃないか。
　昔の人って、こーいう素敵にハイな名前、けっこう多いのですよ。こういういにしえの「フザけちゃった名前」が、近頃ミョーに気になっている。

　ちなみにこの山茶花さん、どこか不気味な味わいとコメディセンスの持ち主。森繁久彌主演の作品にたくさん出ており、実生活でも親友だったとか。たまたま最近読んだ児玉清さんのエッセイ『負けるのは美しく』（名エッセイだ）に、その晩年の壮絶な仕事ぶりが活写されている（肺結核と糖尿病を併発しつつ、俳優を続けていた）。

負けるのは美しく (集英社文庫)

　蛇足ですが……私、以前の職場の先輩（漫画編集者）に、「お前は山茶花究みたいなヤローだなぁ……」とシミジミよく言われていた。どういうことだろう。

○八波むと志

　さらに掛け算シリーズ。
「八波むと志」（はっぱむとし）という人もいた（写真右）。そう、「8×8＝64」、6（む）と4（し）。
　どーしてこーいう名前つけちゃうんだろうなあ。昭和30年代の喜劇人で、由利徹、南利明と「脱線トリオ」を組んでいた方なんだとか。加東康一さんという超芸能評論家がいたんだけれど、彼の回想録『スキャンダルの昭和史』で私はこの人の名を知った。交通事故で早世され、当時の大ニュースになったらしい。
　ちなみに以前ワイドショーによく出ていらした「八波一起」は子息。

○ハリウッド大女優編
　

　と、ここでいきなり話は飛ぶが……私は松任谷由実が、誰かに曲を提供するときに用いていた「呉田軽穂」というペンネームにも常から疑問だった。
　イケてるのだろうか。当時はイカしてたのだろうか。
　松田聖子とか原田知世が歌うユーミンの曲がベストテンにでると、「作曲　呉田軽穂」とクレジットされるわけですね。昔、「あ……『グレタ・ガルボ』なのね」と気づいたときに感じた脱力感。私的には「山茶花究」とさしてベクトルの変わらない行為に思えてしまう。
　さらには最近、実生活でもユーミンと仲良しという藤真利子が「微美杏里」という名前で作詞・作曲活動をされていたことを知った私。はい、もちろんヴィヴィアン・リー。私はこの人が作詞・作曲を手がけた『ピエール、ピエール、ピエール！』という歌が聞いてみたくて仕方ない。

○おそるべき昭和10年代

　話は前後するが、その昔は「大山デブ子」っていう人もいたのだ。
　もちろんお体は巨体。そのまんま。キネマ旬報社の『日本映画俳優全集・女優編』によると1924年デビューというから、85年前！

「大山デブ子さん」

　当時のセンスって直球というか、なんというか。このひとが出ている1932年の映画で、『あら太いわね』ってのがあるんですが……ああ、見たい！　ちなみにこのとき共演したのが「大岡怪童」というひとで、160cm・105キロを誇ったという。当時の巨漢俳優両横綱とうたわれたらしい。さらには超ガリの「山吹徳二郎」というひとと喜劇トリオを組んでいたんだとか。面白そう……『安田大サーカス』の元祖のようなものだろうか。
　さらに昔なんかの本で読んだのが「日暮里子」という女優さん。昭和10年代に活躍したひとなんですが、芸名をつける際に所長さんだか誰かに呼ばれて
「うーん……あんたどこの出身？」と訊かれ、
「はい、日暮里です」
「あ、そう。じゃあ、子をつけて日暮里子にしよう。決まり！」
　と、なっちゃったんだとか。フザけてつけられた名前の代表だと思う。

○詳しくは書けない

　この時代って、素敵にナンセンスというかいい加減というか。
　脚本家で映画評論家の猪俣勝人さんによると、昔の女優さんで吉川満子、坪内美子ってひとがいるんですけどね、彼女たちの芸名は……その……所長さんたちだかが、フザケてつけた極致なんだそうだ。名器たれ、という思いからだそうですが、恥ずかしくてこれ以上は書けないので、分かるひとだけ分かってください。
　青木放屁なんていう子役もいたなあ。

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